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花sakuブログ

宗廣佳子さんの作品に会ってきました
2021年04月02日

突然の喪中ハガキ


大好きな宗廣佳子さんが昨年、天国に旅立ちました。
5月頃だったか? 
私が愛用させていただいている宗廣さんの半幅帯が
柔らかくなって少しへたってきたと言ったら、
「こっちへ送って〜!シャキッとさせて戻すから〜」
なんておっしゃっていらして、
そのうち送ると約束をして電話を切りました。

年末にご主人からの喪中ハガキを見て、
あまりにピンと来ないまま、立ちすくんでしまいました。
ご主人の吉澤武さんに電話をかけて、
最期の様子が少し分かりました。
お嬢さんの智子さんともやりとりをして、
だんだん現実なのだと思い知りました。
 


延期された二人展


コロナウイルスの感染拡大の影響で、
2020年(去年)の春に開催予定だったのが
延期になってしまってできなかった二人展が、
開催されるという報せを受け取って、
ようやくスケジュールの都合が付いて
大急ぎで出かけてきました。

国立の駅を降りると、桜の花が迫ってきました。


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大学通りをゆっくりと歩くと、
上を見上げれば満開を少しすぎた桜と桜吹雪。
下にはチューリップ、パンジー、シャガ、ヤマブキ……など。



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もしかしたら、佳子さんと一緒にこの景色を眺めることが
できていたのかもしれないなぁ〜と思い始めたら
涙が自然と出てきました。(花粉症のせいかな)


会場の「ARTspace&Tea わとわ」までの
約1キロの道のりはあまりにも美しくて、
私は懐かしい大好きな佳子さんと
ぺちゃくちゃとたわいもないお話をしながら
ゆ〜っくり歩きました。



なぜ、海のテーマなの?


わとわの会場に入ると、手の温もりが伝わってくるような作品たち。

 
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正面には「ああ、佳子さんらしい」
と思わせてくれる優しいあの色。
あのグレーが待っていました。

作品名は「春の海」




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ああ、佳子さんだ。


ああ、この着物を着たいなぁ〜。

そしたらもっと佳子さんを近くに感じられるかな?

 

ギャラリーの人が
「今となってはどうやって作ったのか
もう誰にも分からないのですが、
すごい技法なんですよ〜」
って隣で教えてくださっている声が
どんどん遠くなって、
私はしばらくの間、
佳子さんと二人きりで
すごすことができたような気がします。


ねぇ、どうやって色柄を決めるの? 

え? 自分が眺めている信州の風景からのイメージと、
注文いただいた方のイメージからの二パターンかな。

へぇ〜、そうなんだ……


作品の前で、私はずっと佳子さんとお話を続けていました。


きっと佳子さんが見たら、
「お父さん、着物のかけかた違ってる」って直しそうな、
不器用な衣桁掛けに、
精緻な絣が柔らかくたわんでいて、
佳子さんは笑顔のままで少し怒っていました。

聞きたかったことがあるの。 

なぁに? 

だって海のない岐阜県の郡上八幡で生まれて、
小諸で独立したでしょう? 
そして今は東御市。
なのに、佳子さんの作品って、
「清流」とか「海波」とか「春の海」とかが多いでしょう?
あ、「清流」は、信濃川かな? 

でも、海はなぜ? 

ふふふ。秘密



永遠の秘密

 
春の海、着たいな。


これ、私が着てもいい?
似合うかしら?

地味じゃない?

でも、すごく着たいのよ。


秘密は、永遠の秘密になってしまいました。


白い軽自動車


宗廣佳子さんとの初めての出会いはもう、
15年あまり前になるのでしょうか。
東御市のお宅兼工房へ伺ったときに、
しなの鉄道の小さな駅では秋桜の花が揺れていました。

白い軽自動車で迎えに来てくださって
一目散に駆け寄ってきてくださったはじける笑顔。
「明日新車が来るのよ、オンボロの最後の日になっちゃってごめんね〜」
そう言いながら見せる屈託のない気さくな雰囲気が忘れられません。

ガタゴトガタゴトと、
それはそれは実に良く揺れる道中で、
それが車のせいなのか、
道路の事情なのかは分かりませんが、
振動がお尻にダイレクトに響くせいか、
座布団を敷いてくださっていました。



郡上紬とは言わない

 
高台にある自宅兼工房の前からは、
北アルプスの山脈がうっすらと見えていました。
廊下を挟んで、琴製作職人のご主人と、
機織りの佳子さんの工房。
お父様の宗廣力三さんは郡上紬の人間国宝。

そして、佳子さんが大学を出るやいなや、
天に召されてしまったお母様も、
機織りの大好きな女性でした。

郡上の糸を兄から送ってもらっているけれど、
ここは長野県だから郡上紬とは言わない
ともおっしゃっていました。



思いの強さだと思ってる


お父さんが郡上紬の人間国宝で、
お母さんが機織りが大好きで、
そりゃぁもう、機織りをするDNAかと思いきや、
それは違うとキッパリおっしゃっていたのも
記憶に残っていまいす。


物づくりって、
その人がどれくらいそういうふうにしたいか? 
っていう思いの強さだと思ってる。
そうおっしゃってた佳子さん。

 

強い思いを込めた作品の前でフラッシュバック。

 

思いを込めるから、全身全霊で織るから、疲れるのです。

鶴の恩返しのつうが、身を削るようにして機織りをするように

思いを込めて…… 



どぼんこ染


糸は郡上から。
そして染めは裏の庭でご自分で染めていました。
よく見るとグラデーションの不思議なぼかし染めは
「どぼんこ染」とおっしゃっていらして、
糸を垂らしたまま垂直に染料へ浸して、
繊維が自然に染料を吸い上げる力だけで染めると、
クッキリはっきりした染めの間に、
なぜか優しさや立体感を感じさせてくれる独特の世界感が生まれます。



また会おうね!

 

「やる気が出なくなるときがある」
とときどき言っていました。
大きな展覧会へ出展したあとや、
プライベートで何かあったときに疲れ果ててしまったりして……
というときでも、
絣の大作を染めたり織ったりしていなくても、
「お遊びよ」って笑いながら半幅帯や小物類を織っていました。


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ご主人の吉澤さんは、佳子さんが旅立ったと知ったあとに
電話をしたときに

展示会に向けて最期まで機織りをしていた

 

と、教えてくれましたが、
並んでいる作品を見たら、
きっと最後の最期はきつかったし、
つらかったんだろうなぁ〜と、
また涙があふれそうになりました。



いつか、私のイメージで図案を描いてって言いたかったよ。

ゴメン、せっかちだから先に行くね

ちょっと疲れちゃった。

そのうち後から行くから、天国で織ってね。

もちろん!

腕がなまらないように天国でも織っててね。



そんな話をしながらまた
桜吹雪に拭かれながら帰り道を
不思議な気持ちで歩きました。


国立にいた時間だけが、
夢みたいな数時間でした。
気づけばとても美しいところに佇んでいました。


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また会おうね!


秋桜の頃に出会った大好きな佳子さんに、

桜の下でさようならを言ってきました。



二人展

宗廣佳子(染織)×髙橋敦(木工・漆)二人展
〜4月4日(日)

Art space&Tea わとわ

東京都国立市中二丁目17−2 B1F
TEL 042−580−1047





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